「誰が送られているか」を、確かめてみる

こんにちは、谷口です。9月20日頃にお話しした「移民という器」という記事にも通じる、アメリカの移民政策についてです。今日は、一つのニュースを深く掘り下げてみたいと思います。


目次

何が起きているのか

トランプ政権は、本国が受け入れを拒否している、あるいは本国へすぐに送還できない移民を、本国ではない「第三国」へ送還するという政策を進めています。ボストン連邦地裁、続いて第1巡回控訴裁判所は9月18日、「送還先の国で迫害や拷問を受ける恐れがあると訴える、十分な機会を与えずに送還するのは違法」という判断を示しました。これにより、70人を乗せ3か国へ向かう予定だった送還便が直前でキャンセルされ、政権は9月24日、連邦最高裁に緊急の申し立てを行いました。訟務長官サウアー氏は、この措置を「最悪の犯罪歴を持つ外国人を含む、外国人を送還するための不可欠な手段」と主張しています。すでに2万5,000人以上が、この制度のもとで送還されたとされています。


なぜ第三国で暴力を受けるのか

ニューヨーク・タイムズは、赤道ギニアに送還された男性2人が、現地警察に頭巾をかぶせられ、拘束され、銃で殴られ、階段から突き落とされたと報じています。この2人を含む29人は、マラボ郊外の老朽化したホテルに、事実上の収容施設として拘束されていました。弁護士や人権団体によれば、この暴力は、収容施設の状況を外部に伝えようとしたことへの報復だったとされています。

ここで重要なのは、この29人の多くが、本国へ送還されれば迫害や拷問を受ける恐れがあると、アメリカの裁判所自身がすでに認め、「送還停止」という法的保護を与えられていた人たちだったという点です。つまり、第三国への送還は、こうした保護を実質的に回避する手段としても使われている可能性がある、ということです。送還先の赤道ギニアは、40年以上同じ大統領が続く独裁国家で、米国務省自身も、拷問や恣意的な逮捕を含む人権侵害の実態を、これまでに報告しています。暴力の背景には、送還された人自身の経歴というより、送還先の国そのものが抱える統治の問題があるように見えます。


送られているのは、本当に「凶悪犯罪者」なのか

ここは、情報源によって、かなり見え方が異なります。国土安全保障省は、これまでにも「殺人犯」「性犯罪者」といった、具体的な凶悪犯罪歴を持つ送還者の実名を公表しています。一方、26の国際的な報道機関が連携し、33人の被送還者への取材をもとに行った調査報道(Forbidden Stories、フランス24)では、アフリカへ送還された人の多くには、そもそも前科がないと報告されています。前科がある場合でも、その多くはすでに刑期を終え、何年も前に服役を終えていたケースだったといいます。2025年に252人のベネズエラ人がエルサルバドルへ送還された際も、政権側は彼らを「ギャング組織の構成員」だと主張しましたが、その後の調査では、およそ半数に前科がなく、暴力犯罪での有罪歴があったのはごく一部だったことも分かっています。

つまり、「凶悪犯罪者を送還している」という政権側の説明と、「前科のない人や、すでに法的保護を得ていた人も広く含まれている」という独立した調査報道の結果は、真っ向から食い違っています。どちらか一方が完全に正しいと断定できる段階ではなく、両方の情報が存在するということ自体を、まず知っておく必要があると思います。


これが「当たり前」になっていくのか

すでにアメリカは、20か国近くと、この第三国送還についての協定を結んでいます。こうした手法が一度前例になれば、他の国でも同じような発想が広がっていく可能性はあると、私は感じています。ただし、現時点で日本を含む他国が、同様の第三国送還の仕組みを検討しているという確認できる情報はありません。ここは確定した事実ではなく、私自身の仮説として申し添えておきます。


私の視点

9月20日頃の記事で、私は「移民に対する不安の多くは、事実そのものより、体感や報道の量に引っ張られやすい」ということを書きました。今回のニュースにも、同じ構造があるように思います。「凶悪犯罪者を送り出している」という主張と、「前科のない人も多く含まれている」という報告。どちらか一方だけを信じるのではなく、両方の情報を並べたうえで、自分の頭で判断する姿勢が、今回のようなテーマでは特に大切なのだと感じます。


私からのメッセージ

「誰が、どんな理由で送られているのか」を確かめることは、簡単なことではありません。それでも、その確認作業を放棄せずに続けることこそが、移民を巡るどんな立場の人にとっても、必要な姿勢なのだと思います。


今日のひと言

ある政策の是非を判断するとき、あなたはどれだけ、その対象になっている「個々の人」の実像まで、確かめようとしていますか。


情報源について

この記事は、以下の一次情報をもとに執筆しています。

  • The New York Times「Trump Administration Asks Supreme Court to Allow Deportations to Third Countries」(2026年9月24日)
  • The New York Times「赤道ギニアへ送還された被送還者への暴行に関する報道」(2026年9月18日)
  • France 24/Forbidden Stories「Third-country removals: Trump’s deportation policy by the numbers」(26の国際報道機関による共同調査、2026年9月21日)
  • American Immigration Council「What Are Third-Country Removals?」
  • Third Country Deportation Watch(非営利団体による追跡データ)
  • 米国土安全保障省(DHS)公式発表

本記事は、公表されている報道をもとに、谷口光利が独自の視点でまとめたものです。政権側の主張と、独立した調査報道の結果の両方を紹介しており、どちらか一方を正しいと断定するものではありません。特定の政治家個人への評価は含んでいません。

日本ボディーケア学院学院
鍼灸師、柔道整復師、指圧師

日本ボディーケア学院は今年で開講27年目を迎え、国内では通学講座、オンライン教材で指導し、現在87カ国に教材を販売している。

コメント

コメントする

目次
閉じる