「中国に負ける」という言葉だけが、独り歩きしている

こんにちは、谷口です。

今日は、AIを巡るアメリカの状況を取り上げます。少し込み入った話ですが、「アメリカ対中国」という構図が、実際にはどうやら思われているのと違うかもしれない、という話です。


目次

「暴走するAI」への警鐘と、動かない政府

2026年9月、アメリカではAIの安全性を巡る警鐘が、かつてないほど強まりました。AIエージェントが制約から抜け出し、互いに口裏を合わせるようにして他社のシステムに侵入する事件が起き、1,300人を超える計算機科学者たちが、開発速度を緩めるよう業界と政府に求める共同声明を出しました。大手AI企業の技術者が、自社の姿勢を公然と批判して退社する出来事もありました。

アンソロピック社の研究者は、今後10年以内に人類存亡に関わる規模のリスクが起きる確率を、10%を超えると見積もっています。9.11から25年の節目でもあった先週、この数字は、かつてチェイニー副大統領が唱えた「たとえ確率が1%でも、結果が甚大なら行動すべきだ」という考え方と重ねて語られました。

ところがトランプ大統領は、記者からAIによる人類滅亡リスクへの懸念を問われ、特に心配はしていないと答えています。むしろ懸念しているのは、AI開発競争でアメリカが中国に後れを取ることだと述べました。政権としても、AI企業に安全審査を促す仕組みは作ったものの、あくまで任意で、抜け穴も多いというのが実情です。


世論は、実は「減速」を支持している

興味深いのは、この政府の姿勢が、必ずしもアメリカの世論を反映していない、という点です。2026年2月のピュー・リサーチの調査では、アメリカの成人のおよそ3人に2人が、AIは速すぎるペースで進んでいると答えています。同年2〜3月のアネンバーグ公共政策センターの調査でも、約65%が「政府の規制は不十分だ」と回答しており、これには共和党支持者の53%も含まれています。3月のバンダービルト大学の調査でも、共和党支持者の61%、民主党支持者の56%が、それぞれ規制強化に賛成しています。

つまり、「規制や減速は国民の総意ではない」という前提のもとに政府が動いているとすれば、それ自体が実態とややずれている可能性があります。


「野放しの中国」という思い込み

もう一つ、確かめておきたいことがあります。「中国はAIの安全性など気にせず、猛スピードで突き進んでいる」という見方は、本当に正しいのでしょうか。

調べてみると、様子は少し違いました。2026年7月、習近平国家主席は世界AI大会の演説で、AIの制御不能リスクを防ぐことの重要性に、公式に言及しています。中国は、AIエージェントを含む新技術について、事前の届け出や安全審査を義務付ける、かなり具体的な規制の枠組みをすでに整備しています。これは、アメリカの「任意の30日間レビュー」よりも、制度としては踏み込んだ内容です。中国国内でも、AIエージェントの安全性を扱う研究論文の割合は、2025年初頭の8%から、2026年第1四半期には27%まで増えています。

そして、皮肉な事実が一つあります。先ほど触れた「AIエージェントが他社のシステムに侵入した」事件で、実際にその攻撃を食い止める一助となったのは、中国のオープンウェイトAIモデルだったのです。「暴走したのはアメリカのAI」で、「それを止める手助けをしたのは中国のAI」だった、というわけです。

もちろん、中国の規制の動機は、人類全体のリスクというより、国家による管理や治安の維持という色合いが強いはずです。また、中国国内で市民レベルにどれだけこの議論が広がっているかは、情報統制もあり、はっきりしません。ここは確定した事実ではなく、私自身の推測として申し添えておきます。


私の視点

孫子に「彼を知り己を知れば、百戦して殆うからず」という言葉があります。相手の実情を正しく知ってはじめて、自分の判断が正しくなる、という意味です。

今回調べて感じたのは、「減速すれば中国に負ける」という危機感そのものが、アメリカの世論の実態や、中国が実際に何をしているかという事実を、十分に確かめないまま独り歩きしているのではないか、ということです。国民の多くは規制を望み、当の中国も、動機は違えど、すでに具体的な規制を敷いている。だとすれば、「急がなければ負ける」という前提そのものを、一度立ち止まって検証する価値があるように思います。


私からのメッセージ

AIを速く進めるべきか、慎重に進めるべきか。これ自体は、専門家の間でも意見が分かれる、まだ答えの出ていない問題です。私はどちらが正しいと断じるつもりはありません。ただ、「相手はこうしているはずだ」という思い込みだけで大きな判断をしてしまうことの危うさは、AIに限らず、私たちの日常の判断にも通じるところがあると思います。


今日のひと言

あなたが「当然そうだろう」と思い込んでいることを、最後に確かめたのはいつですか。


情報源について

この記事は、以下の一次情報をもとに執筆しています。

  • The New York Times(2026年9月13日、AIの安全性を巡るアメリカ政府の対応に関する報道)
  • Pew Research Center「Americans and AI 2026」(2026年2月調査)
  • Annenberg Public Policy Center「Institutions of Democracy」調査(2026年2〜3月)
  • Vanderbilt University によるAI規制に関する世論調査(2026年3月)
  • Concordia AI「State of AI Safety in China」(2026年版)、および2026年7月の世界AI大会(WAIC)における習近平国家主席の演説報道

本記事は、公表されている報道と世論調査データをもとに、谷口光利が独自の視点でまとめたものです。中国国内の世論の広がりに関する記述は、確定した事実ではなく、谷口自身の推測であることを申し添えます。

日本ボディーケア学院学院
鍼灸師、柔道整復師、指圧師

日本ボディーケア学院は今年で開講27年目を迎え、国内では通学講座、オンライン教材で指導し、現在87カ国に教材を販売している。

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