こんにちは、谷口です。
今日は、2026年の全米オープンで起きた、ちょっと面白い“騒動”を取り上げます。テニスの話というより、新しいファンを増やしたい主催者と、伝統的な観戦文化を大事にしたいファンとの間で起きた、摩擦の話です。
大坂なおみ選手の試合中に起きたこと
2026年の全米オープンでは、主催団体である全米テニス協会(USTA)が、公式の「コンテンツクリエイター・プログラム」を通じて、多くのSNSインフルエンサーを大会に招待しました。若い世代や、これまでテニスに馴染みのなかった新しい観客層を取り込むための施策です。
ところが大坂なおみ選手の1回戦、コート脇のスイート席にいた一団が、試合中にリングライトを使って撮影用のポーズを取り続け、審判が着席を求める事態に発展しました。この様子は瞬く間に拡散し、「インフルエンサーが全米オープンを台無しにしている」という批判が、複数の大手メディアで一斉に取り上げられることになりました。
興味深いのは、この一件で批判を浴びた人たちが、実はUSTAが公式に招待した「コンテンツクリエイター」ではなかった、という点です。後日、USTA側は、この一団が「ベンダースタッフ」として誤って登録されていたと説明し、該当者のクレデンシャル(入場資格)を取り消しています。つまり、世間が「インフルエンサー全体」への批判として受け止めた騒動は、実際には公式プログラムとは別の、いわば“招かれざる客”によるものだった、という側面があります。
なぜ、あえてインフルエンサーを招いたのか
そもそも、なぜUSTAはこのような施策に踏み切ったのでしょうか。USTAの広報責任者は、これまで以上に多くのファンが大会を体験しに来てくれていることを歓迎する姿勢を示し、目的は明確に、SNSを通じてテニスというスポーツ自体の認知と人気を広げることだと説明しています。
一方で、2026年の全米オープンは、チケット価格が過去最高値を更新したことでも批判を浴びていました。「新しい客層を取り込みたい」という姿勢と、「チケットは高騰する一方」という現実は、一見すると矛盾しているようにも見えます。もっとも、見方を変えれば、従来の観戦マナーに馴染みのない新しいファン層が増えていること自体が、この施策が一定の効果を上げている証拠だ、とも言えるかもしれません。
結局、成功だったのか、失敗だったのか
ここが一番気になるところだと思います。結論から言うと、現時点では「成功」とも「失敗」とも言い切れない、というのが正直なところです。
マイナス面は明らかです。大坂なおみ選手やココ・ガウフ選手といった、大会を代表する選手たちが公の場で苦言を呈し、複数の大手メディアが批判記事を書きました。ウィンブルドン選手権はこの騒動を受けてか、来年からインフルエンサーを一切招待しないことをすでに発表しています。伝統と格式を重んじる大会ほど、慎重な姿勢に転じたわけです。
一方でプラス面もあります。USTAは方針を撤回するどころか、ファンの熱量はテニスにとって良いことであり、それがコート上のプレーの妨げにならない限り歓迎する、として施策の継続を明言しています。実際、この騒動そのものが、全米オープンという大会の話題量を大きく押し上げたことも事実です。悪目立ちであれ、認知の拡大という意味では、狙い通りの結果が出ているとも読めます。
私の視点
私がこの騒動で面白いと思うのは、「新しい客層を取り込むこと」と「これまでの客層の体験を守ること」は、どんな業界でも簡単には両立しない、という普遍的なテーマがここに表れていることです。
論語に「温故知新(故きを温ねて新しきを知る)」という言葉があります。古いものを大切にしながら、そこに新しいものを重ねていく。全米オープンの今回の一件は、この順番を間違えると、せっかくの新しい試みが、単なる“炎上”として消費されてしまう、ということを示しているように思います。
これは、私自身の仕事にも重なるところがあります。日本の伝統医学という、決して新しいとは言えないものを、世界中の新しい世代に届けようとするとき、私たちも常に同じ問いに向き合っています。伝統の本質を薄めずに、どうやって新しい人たちに届けるか。全米オープンの主催者たちも、きっと今、同じ問いの真っ只中にいるのだと思います。
今日のひと言
あなたが大切にしている「古いもの」に、新しい人を迎え入れるとしたら、まず何を守りますか。
情報源について
この記事は、以下の一次情報をもとに執筆しています。
- 「Separating fact from fiction: The influencer controversy at the US Open」ESPN(2026年9月)
- 「Influencers, weed and disruptions stir controversy at U.S. Open」KTLA(2026年9月)
- 「Lights, camera, action: Irksome influencers at the US Open are here to stay」Al Jazeera(2026年9月7日)
- 「US Open says 2 influencers whose credentials were revoked were ‘improperly submitted’ as vendor staff」Yahoo Sports(2026年9月)
- 「Social media influencers called out for bad tennis etiquette at U.S. Open」NPR(2026年9月7日)
本記事は、公表されている報道をもとに、谷口光利が独自の視点でまとめたものです。









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