古いルールが、静かに終わろうとしている

こんにちは、谷口です。

以前、この場所で「嵐の前には、いつも小さな予兆がある」という話を書きました。第二次世界大戦のあとに作られた世界の秩序が、少しずつ軋み始めている――そういう論説を紹介した回です。今日は、その続きにあたる話をします。あのとき「予兆」と呼んだものが、この一年で、はっきりとした輪郭を持ち始めたからです。

目次

ひとつの、忘れられない場面から

ニューヨーク・タイムズのオピニオン国際チームが、「The New World Disorder(新しい世界の無秩序)」という連載を始めました。その冒頭で、担当編集者が「今年、世界が変わる速度が一段と上がった」と書き、いくつもの出来事を挙げています。カーニー加首相のダボスでの演説、ホルムズ海峡の封鎖、米ロの核軍縮条約(New START)の失効。どれも、これまでの常識が揺らいだ瞬間です。

そして編集者が「今年、最も際立った場面」として挙げたのが、2026年1月のことでした。アメリカ軍がベネズエラに軍事作戦を敢行し、首都カラカスでマドゥロ大統領とその妻を拘束。トランプ大統領は「安全で適切な政権移行が終わるまで、アメリカがこの国を運営する」と表明しました。日本でも大きく報じられ、「アメリカは、少し危ういところに来たのではないか」と、多くの人が感じたニュースでした。

アメリカがラテンアメリカに介入したのは、これが初めてではありません。歴史をたどれば、何度もあったことです。けれど、この一件が突きつけたメッセージは、これまでとは少し違って響きました。アメリカは、もう古いルールに従って動くつもりはない――そういう合図として、世界に受け取られたのです。

「新しい時代」を、正直に認める

連載の巻頭に寄稿した歴史家マーガレット・マクミランは、私たちにこう呼びかけています。新しい時代に入りつつあることから、目をそらしてはいけない、と。彼女の言葉を、私なりに受け取ると、こうなります。「今がどれほど深刻な局面なのかを正直に見つめること。そして、私たちの拠って立つ仕組みが、もろく揺らいでいるという事実を、静かに受け入れること。そこからしか、備えは始まらない」。

この連載は、「これからどうなる」という答えを教えてくれるものではないと、編集者自身が最初に断っています。むしろ、答えのない時代に入ったことを、そのまま見せようとしている。私は、その正直さに、かえって信頼を感じました。不安を煽って答えを売るのではなく、分からないことを分からないと認める。それは、コンテクストノートが大切にしてきた姿勢とも、深く重なります。

私の視点 ―― 世界は、これからどう変わっていくのか

ここから先は、確定した予測ではなく、私自身の見立てとして聞いてください。

これまでの世界は、大まかに言えば「アメリカが決めたルールのもとで、みんながその範囲で競い合う」という形で回ってきました。好き嫌いはあれ、共通の審判がいるサッカーの試合のようなものです。ところが今、その審判自身が「私はもう、自分の都合で動く」と言い始めた。そうなると、他の国々も「では、こちらも自分の身は自分で守るしかない」と考え始めます。

私が見立てるに、これから世界は、ひとつの大きな秩序から、いくつもの小さなまとまりへと分かれていくのではないかと思います。アメリカはアメリカの都合で動き、ヨーロッパはヨーロッパで結束を模索し、アジアはアジアで新しい距離感を探る。連載の第二回で、カナダのアルバータ州で分離独立を求める人々が取材されていましたが、これも同じ流れの一片でしょう。大きなまとまりが緩むと、その内側でも、小さな「独立したい」という声が生まれてくる。国の外でも内でも、同じことが起きているのです。

こうした時代は、一見すると不安に満ちて見えます。けれど、悪いことばかりではありません。ひとつの巨大なルールに全員が従う時代が終わるということは、それぞれの場所が、自分の頭で考え、自分の足で立つことを求められる時代が来る、ということでもあるからです。

私からのメッセージ ―― では、日本はどうすればいいのか

では、この揺れる世界の中で、日本はどう立てばいいのでしょうか。そして、私たち一人ひとりは。

私は、ひとつの答えを、自分の暮らし方そのもので実践しています。それは、根は日本にしっかり置いたまま、世界と取引するという生き方です。

私は今、海外に向けて教材を販売しています。ときにはフランスに滞在して仕事をしたいとも思っています。けれど、日本を離れて、どこかに移住するつもりはありません。私の基本はこうです。日本にいながら、ドルを稼ぐ。稼いだドルで、また世界に向けた仕事をする。そして日本のビジネスは、日本で、日本のやり方で回していく。二つの経済圏に、それぞれ足を置いておく、という感覚です。

なぜ、この形なのか。世界がいくつものまとまりに分かれていくのなら、どこか一つの場所に、すべてを賭けないほうがいいと考えているからです。日本という土台があるから、世界が荒れても慌てずにいられる。世界とつながっているから、日本が沈んでも、それだけに引きずられずにすむ。どちらか一方ではなく、両方に軸足を持っておく。これが、審判のいなくなった時代の、私なりの備え方です。

そしてこれは、国のレベルでも同じではないかと思います。日本は、どこか一つの大国だけに寄りかかるのではなく、複数の相手と、それぞれに誠実な関係を結んでおく。自分の立ち位置を、自分で決められる余地を、少しずつでも広げておく。世界が一つのルールで回っていた時代には、それは「乗り遅れないこと」が大事でした。けれど、ルールが複数に分かれていく時代には、「どこにも完全には属さず、けれどどことも付き合える」しなやかさこそが、力になるように思うのです。

私が毎朝、世界のニュースに目を通しているのは、世界を怖がるためではありません。むしろ逆です。世界がどちらに動いているのかを、いわば気温のように、日々感じ取っておく。そうすれば、寒くなる前に上着を用意できる。慌てず、けれど絶えず、世界の空気を測っておく。それが、この時代を静かに生き抜くための、いちばん確かな準備だと思っています。

今週のひと言

審判が「私はもう、自分の都合で笛を吹く」と言い出したとき、選手たちは、どうすればいいのでしょうか。

慌てて誰かの後ろに隠れることもできます。けれど、自分の足で立ち、自分の頭で次の一手を考えることも、できます。

あなたは、世界のどこに根を張り、どこと手をつなぎながら、これからの時代を歩いていきますか。


情報源について

この記事は、ニューヨーク・タイムズのオピニオン部門による連載企画「The New World Disorder(新しい世界の無秩序)」の案内ニュースレター、および同シリーズの巻頭エッセイ(歴史家マーガレット・マクミラン氏による寄稿)を主な出発点としています。

本文で触れた2026年1月のベネズエラでの出来事――アメリカ軍によるマドゥロ大統領夫妻の拘束と、トランプ大統領による「アメリカが同国を運営する」との表明――については、イギリス下院図書館の調査資料、アメリカ議会調査局の報告、およびロイター、AP通信、PBS、アルジャジーラなど、立場の異なる複数の報道機関による報道で、事実関係を確認しました。この軍事作戦の国際法上の合法性については、法学者や政治家から疑問が呈されていることも、あわせて報じられています。

なお、本稿の「私の視点」以降で述べた「世界がこれからどう変わっていくか」という見通しは、確定した予測ではなく、あくまで私自身の見立てです。世界の動きは流動的であり、ここで描いた方向とは異なる展開になる可能性も、十分にあります。確定した事実(すでに起きた出来事)と、まだ確定していないこと(これからの見通し)を、分けてお読みいただければ幸いです。

最後に、少しだけお時間をください

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。

実は、こうした世界の動きを追いかけることは、私自身のライフワークになっています。サイエンス、ネイチャー、ニューヨーク・タイムズ。世界の信頼できる一次情報から、日本ではあまり報じられない、けれど大切な動きを、拾い上げています。

なぜそんなことを続けているのか。理由は、はっきりしています。世界の動きを知ることが、私自身の判断の物差しを増やし、煽りに振り回されず、自分の軸で世界を見る力を育ててくれているからです。

この感覚を、もっと多くの方と分かち合いたい。そう思って続けているのが、「コンテクストノート」という情報発信です。

今日お届けしたような、世界の一次情報から拾い上げたレポートを、限定公開でお届けしています。本数はあえて決めず、これは伝えておきたいと感じたものを、その都度お届けしています。月額980円(税込)です。

もし、今日のこの文章の読み心地が「自分に合うな」と感じていただけたなら、こちらからご案内しています。

CONTEXT NOTE

世界を、自分の目で見る。
その一歩を、今週から。

サイエンス誌、ネイチャー誌、ニューヨーク・タイムズ。世界の一次情報をもとに、日本ではあまり報じられない動きを、私の視点でひとつずつお届けします。

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日本ボディーケア学院学院
鍼灸師、柔道整復師、指圧師

日本ボディーケア学院は今年で開講27年目を迎え、国内では通学講座、オンライン教材で指導し、現在87カ国に教材を販売している。

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