こんにちは、谷口です。
今年は日本各地で、これまであまり大きな被害の記憶がなかった地域でも、短時間に激しい雨が降り、大きな被害が出ています。「なぜ、こんな天候になったのか」と感じている方も多いのではないでしょうか。今週は、そのヒントになりそうな、科学誌サイエンスに掲載されたばかりの研究をご紹介します。
ガラパゴスのサンゴが語る、千年分の記録
この研究が注目したのは、太平洋で数年おきに発生する気候現象「エルニーニョ」です。エルニーニョが起きると、南米で洪水が起き、アフリカの一部では深刻な干ばつが起きるなど、地球上でもっとも大きな異常気象の引き金のひとつとされています。
このエルニーニョが、地球温暖化によって強まっているのかどうかは、長年はっきりしませんでした。理由は単純で、人工衛星による正確な観測データが1980年代以降しかなく、比較のための「過去の物差し」が短すぎたからです。
そこでミシガン大学の研究チームが目をつけたのが、ガラパゴス諸島に生きる、千年前から成長し続けているサンゴでした。サンゴは一年ごとに層を重ねて成長するため、その層に含まれる微量元素を調べることで、その年の海水温を読み取ることができます。この手法を使い、研究チームは過去1000年分のエルニーニョの記録を復元しました。
その結果、この40年間で、エルニーニョに伴う水温の振れ幅が36パーセントも強まっていることが分かりました。これは、過去数百年間のどの時期にも見られなかった規模だといいます。
「確定していること」と「まだ分からないこと」
ここで大切なのは、研究チーム自身が、慎重な言い方をしていることです。彼らは「これで証明された」とは言っていません。あくまで、振れ幅が強まった時期が、産業革命後の急激な温暖化の時期と重なっていることから、「人間活動による温暖化が、今のところ最も有力な説明である」という立場を取っています。
別の海域(キリバス)のサンゴを使った2019年の研究でも、同じように振れ幅の拡大(25パーセント増)が確認されており、気候モデル・古気候記録・現代の観測データという、まったく異なる3つの手法が、同じ方向を示し始めているのは事実です。ただし、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、2023年の報告書では、温暖化とエルニーニョの関係についてまだ踏み込んだ結論を出していません。次回、2029年に予定されている報告書で、より明確な言及がなされる可能性がある、という段階です。
私の視点
この研究を読んで、私が思い出したのは、東洋思想における「易」という考え方です。易は占いの書物として知られていますが、その根っこにあるのは、「この世界の本質は、変化そのものである」という発想です。陰陽もまた、固定された二つの性質ではなく、絶えず満ち欠けし、大きくなったり小さくなったりを繰り返すものとして捉えられてきました。
今回のサンゴの記録が教えてくれるのは、「悪いことが起きている」という単純な話ではなく、これまで私たちが前提にしていた「自然の振れ幅」の目盛りそのものが、変わりつつあるということだと思います。四季にも、穏やかな年と荒々しい年があるように、自然はもともと一定ではありません。ただ、その振れ幅が、これまでの経験の範囲を超え始めているとしたら、私たちの側の心構えも、それに合わせて更新していく必要があるのではないでしょうか。
東洋医学にも「未病」という考え方があります。病気になってから対処するのではなく、体調の小さな変化の兆しを日頃から感じ取り、整えておくという知恵です。自然との付き合い方にも、同じ姿勢が当てはまるように思います。
私からのメッセージ
「記録的な大雨」「観測史上初」という言葉を聞くたびに、不安になってしまうのは自然なことです。ただ、そのたびに一喜一憂するのではなく、「自然の振れ幅そのものが、これまでより大きくなりつつある時代を生きている」という、少し引いた視点を持っておくことは、心の安定につながるように思います。
自然をコントロールしようとするのではなく、その変化を前提として受け止め、しなやかに構えておく。これは、老荘思想でいう「無為自然」――自然の流れに逆らわず、身を委ねながらも、自分を見失わない生き方にも通じるものです。
振れ幅が大きくなる時代だからこそ、私たちに必要なのは、恐れて身構えることよりも、変化を前提とした、しなやかな心構えなのかもしれません。
今週のひと言
「これまでの経験が通用しないかもしれない」と感じる出来事に出会ったとき、あなたはどんな心の持ち方を大切にしていますか。今週は、そんな自分なりの「しなやかさ」について、少し考えてみてはいかがでしょうか。
情報源について
本稿は、科学誌サイエンス(Science、2026年8月27日オンライン掲載、記者ジュリア・ヴァズ氏)に掲載された、ミシガン大学のジュリア・コール氏らの研究記事をもとに、谷口が要点を整理し、独自の視点を加えてまとめたものです。原文では、研究手法の詳細や、他の気候科学者による評価も紹介されています。
最後に、少しだけお時間をください
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
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